トレタ データサイエンス研究所

Report
2018年3月19日

予約データから未来の客数を予測する

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飲食店の客数を知ること

飲食店の売上はお客様に来ていただいて、料理やドリンクを注文いただくことで成り立っています。売上を伸ばそうと思った場合は、来ていただいたお客様により多く注文いただくということも考えられますが、お客様のお腹も限界があります。それよりも、もっとたくさんのお客様に来ていただいたほうが売上は伸ばせるでしょう。

お店のスタッフのシフトを考えるときも、お客様の多い日にはたくさんのスタッフに入ってもらいたいですが、お客様が少ない日には少ないスタッフでお店を運営した方が効率が良さそうです。食材もお客様がたくさん来そうな日に合わせて仕入れしておけば、品切れや廃棄ロスを防げるかもしれません。飲食店を運営する立場で考えてみると、お客様の数を知る意味はありそうです。

ここで、飲食店に独特なお客様の用語を整理しておきます。

  • 予約客:事前に予約をしてから来店されるお客様
  • ウォークイン:予約無しで来店されるお客様

お客様の数を知るということを考えると、予約で100%成り立っているお店であれば予約という未来の情報があるため、それだけを元に客数を見積もれば良いことになります。大抵の飲食店では予約だけでは無く、ウォークインも受け付けているため、予約客とウォークインの両方を合わせた客数を見積もる必要があります。ここでもう一つ、お客様の数を考える上で重要な概念を説明しておきます。

  • 席在庫:店舗でその日その時間帯でご案内可能な残空席

飲食店は小売店とは異なり、お客様が来れば来るほど売上が伸びるということにはなりません。飲食店の座席には限界があり、満席の場合には来店をお断りしなければいけない場面もあります。座席数がお客様の数に対する制約条件になります。

データの調理方法

1. 可視化

飲食店では、何らかの形で日々のお客様の数を持っています。紙の予約台帳だったり、POSの購買データだったりします。飲食店の現場に毎日行っていれば、肌感覚として、いつが空いてるのか、混んでいるのかということは知っていると思います。しかし、毎日来ないスタッフはそのことを知らなかったり、複数店舗で展開してる場合は、他の店舗がどうなっているか知らない場合もあります。

まずは、現状把握のための可視化をしてみる必要があります。日々の客数がデータとして手許にあれば、エクセルなどで日別客数の折れ線グラフを書いて見ましょう。下記の図は、1年分のダミーデータですが、なんとなくお客様の数に対する仮説が思い浮かんできます。

  • 3月は歓送迎会で増える
  • 梅雨明けも増える
  • 12月も忘年会で増える
  • 週で見ると金土日が多いけど、その他曜日は少なそう
  • あの日はスタッフに多めに入ってもらっていたけど、お客様は少なかったな
  • あのときは空席が全然無くて、ウォークインのお客様をお断りして申し訳無かったな
客数推移(1年)

1年間の客数を日別に可視化

客数推移(1週間)

1週間の客数を日別に可視化

2. 予測

可視化をすると、過去に何が起きていたかは分かります。それはあくまで過去の情報であって、未来の情報ではありません。未来を知るためには予測をする必要があります。実は予測というのは、皆さん普段からやっていることです。「金曜日と土曜日は普段から予約が多いから、来週の金曜日と土曜日も同じくらい多い予約が入るだろう」とか、「ここ最近、去年の予約客数よりも10%程度多い予約を頂いているから、しばらくは去年の10%増で予約が入るだろう」というような、過去の経験に基づいて未来で何が起こるのかを考えることは予測です。

こうした予測は飲食店のベテランの方は、「自分ではなんとなく分かっている」という状態に持ってくることはできます。一方で、客観的に予測を算出し、スタッフや本部などに共有することができるレベルに持っていくのは、なかなか難しいと思います。

下記の図は、状態空間モデルを用いて客数の予測モデルを可視化したものです。黒線の実績客数に対して、青線の予測客数は合っているところもあれば、ズレているところもあります。薄い青色は予測の95%範囲ですので、ほとんどの黒線が薄い青色の範囲内に入っていることを考えると、この予測モデルは大きく外れることはなさそうです。

客数予測モデルの構築

黒線の実績に対して、青線で予測。薄い青色は予測の95%範囲。

3. アクション

先ほど作成した予測とは、このまま行くとこうなりますよという先行指標になっています。これをアクションにつなげるには、仮説検証を繰り返していく必要があります。仮説検証とは、何でしょうか?例えば、以下の様なものです。

  • 客数が少ない予測の日に、お得なコースを設定したら客数は増えるという仮説に基づいて、実際にコースを設定した場合、予測客数より実際の客数が多くなったか検証する
  • 客数が多い予測の日に、食材の仕入れを多くすることでメニューの品切れを減って売上が上がるという仮説に基づいて、客数の多い予測の日に仕入れを多くしてその客数と仕入れのバランスが取れていたか検証する

このように、仮説があって初めて予測が生かせる状況になります。また、検証したい仮説に合わせて、予測モデルの予測期間(1時間後、1週間、3ヶ月など)や予測の前提を変えていかなければいけないということが想像できると思います。

予測精度は高い方が良い?

さて、気になるのは予測モデルが作れたとして、その予測が当たるのか?ということだと思います。先ほどの予測モデルでは、過去の客数という情報のみしか使っていませんでした。客数に影響を与えることが想像できる、天気や季節イベントなどの情報を加えれば、予測精度は高くなるでしょう。

世の中を見回してみて、予測精度が非常に高い例としては、潮の満ち引きだったり、皆既日食などの自然現象の予測モデルが思い当たるかもしれません。しかし、今回予測を試みた客数などは、人間の意思決定に関わる予測モデルで、自然現象の予測モデルとは根本的に異なります。

仮に客数予測が完全に当たるのであれば、集客のためにクーポンを発行しようが、格安メニューを提供しようが、客数は一向に増えないでしょう。逆に、メディアへの広告を止めたとしても客数は減りません。なぜなら、予測モデルは完全に当たるので、アクションが未来に影響を与えることができないからです。

自然現象の予測モデルで言えば、潮の満ち引きのタイミングをずらしたり、皆既日食を遅らせるなどのアクションは想定されないため、実際に起きる事象と予測モデルの予測がぴったりと合っていてくれることが期待されます。一方で、人間の意思決定のための予測モデルでは、人間のアクションが未来へと影響を与え、予測モデルが予測した時点とは異なる未来が描かれ始めます。

こう考えると、人間の意思決定のための予測モデルは、一つの未来のシミュレーションであり、そのシミュレーションを元にして仮説検証でアクションすることで、よりよい意思決定を手助けするツールであるということになります。

もちろん、過去の十分なデータの蓄積と、予測モデル構築技術は求められますが、仮説検証に耐えうる予測モデルが構築できたのであれば、予測精度向上にこだわるのでは無く、アクションにこだわるようにしたいですね。

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島田 哲朗
この記事を書いた人

コンピュータを含む環境を上手く設計することで、個人やチーム能力を自然に発揮できないかと考え、東京大学大学院 暦本研究室にてモバイルデバイスでのARを研究。2012年に卒業後、アクセンチュア株式会社のアナリティクス部署にて、通信、金融、アパレル、小売における数千万人規模の顧客データを分析・モデリングして、マーケティング、営業支援、商品企画、出店開発などへのデータ主導意志決定に従事。2017年12月より、トレタにて飲食店データを活用したビジネス構築に携わる。

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