トレタ データサイエンス研究所

Report
2018年6月21日

The Web Conference 2018 レポート

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Webに関する世界トップランクの国際学会 “The Web Conference”

4月23〜27日の5日間、The Web Conference 2018 ( https://www2018.thewebconf.org/ ) がフランス・リヨンで開催された。この国際学会は、前身が「International World Wide Web Conference」であり、誰もが知るURLの頭に付く「www」を定義したW3C(World Wide Web Consortium; https://www.w3.org/ )が主催する「WWWの未来を指し示すトピックに関する国際学会」となる。学会自体は「WWWの父」であるティム・バーナーズ・リーにより1994年よりスタートしたもので、現在はWebに関する世界トップクラスの学会*として位置付けられている。
*参照; http://portal.core.edu.au/conf-ranks/1548/

私がWeb関連のカンファレンスに足を運ぶ理由としては、

  • WebやInternetによってデータが大量に作られるようになり、昨今のWeb関連学会はデータ分析やAIに関する論文や発表が非常に多くなっている
  • 特に世界でどういうデータが研究に使われ、どういう取り組みがなされているかを日本では見えない情報を全般的に追うには有効
  • AIやMLの専門学会は別で存在しているが、この辺りをチェックしておくと世の中の最新動向や新しいアイデアを取り込むことができる

などが主に挙げられる。

目立つ中国、目立たない日本

今回の(有料)参加者は2200名超とかなり大きな規模になっていたが、主な内訳は以下。

  • 所属別:Public Sector 40%/Private Sector 20%/Student 20%
  • 国別:France 40%/United States 20%/China 8%/Japan 2%

参加費が10〜20万と高額のため学生比率が低めだが、民間企業の参加者も比較的多い学会である。情報収集はさることながら、学生の採用目的も含めて積極的に動く人も多く見られ、Google, Amazon, Baidu, Yahoo等グローバル企業もスポンサーでブースを出し、世界トップレベルの人材獲得競争も激しいことを感じた。
また、開催国フランス、W3C発祥の米国に続き、中国からの参加者も多く、会場も中国人らしき人々を目にするシーンが非常に多かった。それに比べると日本人は発表者も少なく、アカデミアのWeb、ビッグデータ、データサイエンス領域は米国と中国、そこに割って入ろうとするヨーロッパ、取り残された日本という構図が会場でも明らかに感じてしまった。

また昨年のStation Fの設立、今年5月の「AI立国」宣言など、フランスがテクノロジー領域で巻き返そうとする姿勢が今回の学会誘致でも感じられた。会場はリヨンにある国際コンベンションセンターを貸し切り、リヨン大学、メトロポール・ド・リヨン(日本でいう地方自治体)をはじめフランスの公共機関や民間企業がスポンサーとして力を発揮し、マクロン首相になって以降のスタートアップや人工知能(AI)への投資が非常に活発であることも踏まえて、今後の動きも見逃せないと感じる。

フランス、米国に続き中国からの参加者が多く、日本は中国の1/4に止まる。

GDPRで巻き返しを図る欧州

5月25日に欧州域内市民および居住者のデータ保護を謳ったGDPR( General Data Protection Regulation )が施行されたが、それと並行して欧州委員会( European Commission )は欧州域内でのデータ利活用を促進させるEOSC( European Open Science Cloud )を進めており、本学会でもEC役員がそのアピールに必死だった。現時点では80に及ぶ民間企業や研究機関などがその利活用に著名しており、データ利用規則や実際のデータ活用などで連携していく旨を約束している。米国に対して出遅れたビッグデータやデータシェアリングにおいて、規制と開放で巻き返す目論見だ。

EOSCにより欧州域内での民間企業や大学・研究機関などでのデータ利活用の促進を測る

出遅れるApple

今回のメインのパネルディスカッションは4日目に行われたが、その場にはWWWの父「ティム・バーナーズ・リー」、インターネットの父「ヴィントン・サーフ」をはじめ、Google、Amazon、Facebook、eBayの研究トップたちが揃った。パネル内容は、インターネットのこれから、AIに関して、テクノロジーのあり方など多岐に渡ったのだが、ここにApple関係者がいないことの方が私にとってインパクトは大きかった。2011年に音声対話I/F Siriが先駆的に登場したものの、最近はGoogleからAI責任者を引き抜いたり、IBM Watsonとの連携を強化するなどAIに関する取り組みに迷走感漂っているApple。今後の巻き返しなるか注目である。

Google, Amazon, Facebook等が名前を連ねたがAppleはどこに?

Amazon Alexa開発の目的は“フリックを減らすこと”

もっとも注目を集めたKeynoteはAmazon Alexa開発責任者であるルヒ・サリカヤ氏による「Conversational AI for Interacting with Digital and Physical World (Amazon Alexa)」だったが、感想としては「ストラテジーがシャープすぎてワクワクした」といったところだ。
Amazonにとって音声でのインタラクションを実現する目的は「フリックを減らすこと」だったという。これがカスタマの満足のためというが、果たしてFire Phoneで失敗したAmazonによる「スマホから市場奪還」だったのではないか?と思えるから非常に面白い話だった。しかし、ここからのストラテジーが美しく、

  • フリックという1つの作業だが様々なタスクをそれ1つでやるために「理解」が必要になることが不である
  • 不となる「理解してフリックする」作業を何度もするのでなく一発で減らすやり方はないか?
  • アプリを発見して狭い画面に並べて起動させて狭いフォームに入力したり、しかもそれに1日1000分費やしている
  • 話した方がタイピングより4倍早く入力できる
  • 自然言語を使う作業でフリックを無くすことをテーマにすべき
  • そもそもフリックタスクの80%以上はLow Skill(スキル発見、案内、呼び出し、リコール)である

このように定義したことにより、Low Skillを達成するレベルの音声対話ができることとして競合が競い合う「音声精度No1」の座を捨てている。その代わり、スマホの代替であるからスマホでできることを代替するためのエコシステムを強化している。結果的にAmazonが市場を掴んだ理由は、音声精度より何よりエコシステムと接続性だったと言えるのではないか。Sarikaya氏もこのKeynoteの直後にブログを更新しており、詳細はこちらで。

ブログはこちら:https://developer.amazon.com/ja/blogs/alexa/post/60e1f011-3236-4162-b0f6-509205d354ca/making-alexa-more-friction-free

カスタマの満足は「フリックを減らすこと」というが、スマホでうまくいかなかったからでは?

この学会ではMicrosoftのAI研究責任者も登壇していたが、彼の「音声認識精度でNo1を獲得した」という威勢がやや虚しく聞こえてしまったのは言うまでもない。(それはそれですごいことなのだが)

競合データでさえ統合して分析して公開する中国

200以上の論文発表がある中で興味あるものに走り回って聞くのは非常に大変だが発見も多々あり今回も非常に有意義だったが、その中で分析のアプローチでない観点で驚いたことを1つあげるとすると中国のECサイト5社のデータを集めて、横断して分析して、さらに結果を公開してしまっている(どうしてもこう書いてしまう笑)中国・華中科技大学の研究を紹介したい。

ECサイト大手5社のデータをまとめて分析する中国。

Taobao, Jingdong, Suning, Vip, Dangdang、これら全て競合ECサイトなのだが、発表していた女性研究者は何事もなかったかのように「スマートフォン端末で一意にして分析を行い、傾向を見にいった」と言っていた。分析については目新しいものではなかったものの、中国だからなのかすでにEOSCになっているところに衝撃を受けてしまった。

ShanghaiのJDユーザーは長時間ヘビーユースがかなり多い。

今回の分析は嗜好性や利用時間に関するものだったが位置情報も手に入れているようで、Future Workとして「どこで利用するのか?を見たい」と言っていたところにも非常に興味を惹かれ、かつそこまでデータを流通させることは日本では難しい手続きだと感じざるを得なかった。

民間企業も研究と事業の密連携が目立つ

そのほか、民間企業ではMicrosoft、eBay、Pinterestなど様々な企業がData Science、Machine Learning、Artificial Intelligenceの取り組みを発表しており、日本では聞けない民間企業の研究領域の取り組みを耳にすることができた。そして研究領域だとしても事業との接続を強く意識した取り組みが多く、研究組織でもサービスにインプリメントできる権限と体制を備えているところもあり、世界と日本のギャップを感じるしかなかった。

データ活用については日々のニュースに事欠かず、かつグローバルで様々な動きがあり非常にダイナミズムを感じる最中であり、日本だけでなくグローバルの動きも捉えながらデータ活用を考えていかなければならないだろう。

※上記は社内勉強会で共有した内容から抜粋で作成しております。

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萩原 静厳
この記事を書いた人

1979年生まれ。2005年東京工業大学大学院修了。株式会社リクルート各事業のビッグデータ関連案件に従事。2014年より株式会社リクルートマーケティングパートナーズにて「スタディサプリ」等の教育サービスのビッグデータ解析および、東京大学松尾研究室との「アダプティブラーニング」共同研究等の産学連携を担当。ビッグデータエバンジェリスト。

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