トレタ データサイエンス研究所

Report
2019年1月31日

WalmartのAI活用と、Walmart対Amazonの構造理解/Deep Learning Summit in San Francisco

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1/23〜25で行われたDeep Learning Summitを終えたのだが、想定通り新たな情報を手に入れることができて収穫的には良かったのではないかと思っている。

アカデミアとビジネスでの得られる情報の違い

今回、このイベントに参加した経緯を簡単に説明するが、ここ2〜3年は学会に足を運ぶことが多く技術的な部分のインプットはトレンドをなんとかキャッチしてきた。昨年はKDD2018@Londonに参加し、DeepMindのサイエンティストのKeynoteや、中国の産学連携の強烈な勢い、医療・ヘルスケア・モビリティへのAI活用の波を感じてきたのだが、アカデミアだけを追っているとよりビジネスサイドの潮流も気になるものだ。

そしてもう一つは、アカデミアに出てこないビジネスプレイヤーがいることも気になっていた。米国は様々なビジネスプレイヤーがAI活用を進めているが、その全てが学会に論文を出すわけではない。むしろごく一部だ。そうした流れの中で、「米国のビジネスサイドのAIイベントで、ビジネスプレイヤーがあまり表に出さない情報をキャッチアップしたい」という気持ちで、今回のイベントに足を運ぶようになった。

Deep Learning Summit San Francisco

前述の意識でイベントを探したところ、Machine Learning/Artificail Intelligence関連のイベントは国際学会ほど大きいものがなかった。その中でも定期的に、そして徐々に規模や登壇者のクオリティを上げてきている印象だったのがこの Deep Learning Summit だった。主催はRE・WORKという企業で、テック系のイベントを数多く開催している。当初は未成熟な部分も多いのではないか、と思うこともあり不安な気持ちもあったが登壇者を見る中で、米国のAIを活用している企業のより現場の人間が多い様子だったので、込み入った話もしてくれる期待も込めて行くようになった。

イベントページはこちら

全体的な話をするよりは、印象に残ったセッションを深く紹介した方が良いと思うので、今回は2つのプレゼンテーションを紹介したい。それはWalmartとGoogleBrainだ。

Walmart AI Journey

今回は “Industry Applications Stage” という枠組みの中でプレゼンしてくれた。私が最も期待していた「現場でどれくらいどうやってやってるのか?」を話してくれる(ことを期待している)枠組みだったが、私が最近リテールに関心を寄せていること(つまり偏見)もあり、ワクワクして聞いていた。

話者はRetail Data Science部門のシニアディレクター。

 

まずはWalmartの紹介。

Total Revenueは5,000億ドル(約60兆円)
eCommerce Salesは115億ドル(約1兆円)
カスタマは毎週2.7億人

なんという数字。

 

数字の凄さは、確かに米国で4,761店舗、グローバルではこれ以外に27カ国6,360店舗あるらしい。それにデジタルでWalmart.com, Jet.com, Shoes.comをはじめとして様々なeCommerceを持っている。(全部で$380 billion

 

また、オムニチャネル(久々に聞いた気がする)として、オンラインでオーダーしたものに対して店舗受け取り(Walmart Pickup)、当日4時間以内の店舗受け取り(Pickup Today)、食品雑貨系なら自宅配送もしくは店舗受け取り(Online Grocery)などのサービスがあるようだ。

 

そして、1つ目のキースライド(勝手ながら)はこれ。Merchantの業務内容・フローに対して、それぞれData Scienceのテーマが書かれているが、業務内容全てに対してサイエンスのテーマがあるということだ。いきなりこれを描けたかというとそこまでではないと思うが、それだけ着実にData Scienceの現場活用を進めてきていることがにじみ出ている1枚だ。プライシングや需要予測はよくある話だが、AssortmentやMDでの最適化/予測に取り組んでいることは素晴らしいと感じる。

 

そしてこれも素晴らしいスライド。何が素晴らしいかというと、まずはタイトルに “Question”を使っているところ。Questionはとても大事。「課題」ではなく「問い」、サイエンティストにとって現場の「課題」を解くべき「問い」に落とせるか否かがとても大事だ。科学するには問いにしなければならないし、問いに落とし込まないとクリティカルな解答にならないこと、または適当な解法で技術的な目新しさで解を出すようなこともある。この “Question”でワクワクしてしまった。そして “Daily”も付けているのがより刺さる。

 

商品の価格(Price)と販売量(Volume)を見立てる要素と関係。天気(Wi)と競合価格(Pc)が外的因子とのこと、少なめな印象。一方で、陳列場所(Li)やAssortment(この場合陳列なのか種類なのかはわからなかった)などの店内因子などもある。なるほど、小売だ。もう少しあっても良い気がするが割とこれくらいで解決してしまうのだろう。

 

リアル店舗アルゴリズムについて

やはり欠品や過剰発注などが非常にセンシティブな様子で一番に説明していた。「どうしたら正しい発注量を知れるのか?」というのは小売でもなんでも大きな課題として話していた。

 

持ちあげるつもりはないが、おそらくこのDeep Learning(LSTM)モデルの解を提示する前にはMachine Learningの解があったはずだろう。あくまで現時点の結論としてこれがあるのだろうが、私としては取り組みの過程も見たかった。それはそれとして4週間先の商品毎の需給ギャップを見に行くという。

 

あくまでアイデアとして話していたが、リアル店舗でパーソナライズ価格提示とかするんだという話。「どうやって価格提示するの?」とか越えるべき障害はあるとは思うが、それこそ店舗毎来店者属性の「傾向が違えば価格は違っても良いよね?」という発想を持っても良いわけであり、非常に刺激的な考え方だ。

 

もちろん商品のプライシングモデルを可視化していた。「シーズン初めは売れるが、ある時から売れなくなり始める、そのポイントを把握する」という話をしていた。やはり、仕入れ最適化とプライシングコントロールの合わせ技によるレベニューマネジメントはToCではあるなぁと、外食でもやれること多い印象を受けた。

 

そして商品改善やセットで売るなど様々な施策を検討する上での商品の分類問題が提示された。

 

データ環境の図。懐かしいロゴが。つまりWalmartは長い間こういう取り組みを着実に進めてきていたということだと理解できますし、そもそもMerchantの各プロセスの全てにMachine Learningの問いを定義してAlgorithmを作りに行っている時点で長年取り組んできていたのだ、ということがわかり、そしてそれはリテール領域において、つまり対Amazonにおいて何を意味するのか、ということを深く考えるようになった。

 

AmazonのOffline戦略(AmazonGo、Whole Foods Market買収)との関係

日本にいるとAmazonGoやWhole Foods Marketの買収など、Amazonの戦略はイノベーティブなものに見え、「どこからそんな発想が出てくるのか?」と不思議に思うことが多かったのだが、このWalmartのData Scienceの取り組みを聞いていけばいくほど、AmazonのOffline戦略は「楽観的なPoC」でなく「危機感をもった競合戦略」であったのだろう、ということを深く理解するようになった。

米国リテール市場の王者Walmartが、Offline-Online通じて様々な取り組みを戦略的に講じていて、その一つがこのData Scienceの取り組みであり、Offline-Online双方のデータを確実に保持しており、かつ会員IDによって統合分析が可能であり、その数も毎週数億UUのトランザクションがあるのだ。

この王者と戦うには、真正面からでなくWhole Foods Marketのようにアッパー層のマーケットから、つまりWalmartカスタマから離れたOfflineマーケットを取り込み、そして数千店舗展開しOffline-Onlineのデータ統合が可能な独自店舗展開をするために必要な要素を紐解いた苦心の末のAmazonGoではなかったのか。「ただの会員ID統合では今から独自店舗展開(で勝つこと)は難しい」、「Walmartと同じようなPOSデータと会員IDの統合データでは勝つことはできない」。

そういった環境条件の中で、「スーパーでなくコンビニ」「購買データだけでなく比較検討データ」という解をAmazonは導き出して今のAmazonGoというアイデアを生み出し、わざわざカメラを数百台(当初は数千台)設置したリテール店舗を作るようになったのだ。そして数年以内に3000店舗出店するというニュースが流れるように、Walmartは4700店舗なので、米国リテール領域でのWalmart対Amazonの一騎打ちの絵図が鮮明に描かれていることを深く理解することができる。

ちなみに、AmazonGoも夕方〜夜の時間帯は人は非常に少なく、むしろTagetやTrader Joe’sといったスーパーは非常に混んでいる。(まぁAmazonGoはコンビニの部類に入るので適切な比較ではないが)リテールで「消費者に選んでもらう」ことだけでも苦労は多いことがわかる。San FranciscoにAmazonGoのような店舗を作っているスタートアップが他にもあるのだが(ZippinとStandard Market)、彼らの店舗には品揃えも少ないし人も全然いない。テクノロジードリブンだけではどうにもならないことも明らかだ。

 

当初の目論見通り、学会では得られないデータに関する取り組みと市場とデータの動きを理解することができたのは大きい。上記はWalmartとAmazonの話で帰結したが、Walmartの話を通じてDataがインフラになる、という意味でも感じることは大きい。少しでも理解が皆さんの役に立てれば嬉しいと思う。

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萩原 静厳
この記事を書いた人

1979年生まれ。2005年東京工業大学大学院修了。株式会社リクルート各事業のビッグデータ関連案件に従事。2014年より株式会社リクルートマーケティングパートナーズにて「スタディサプリ」等の教育サービスのビッグデータ解析および、東京大学松尾研究室との「アダプティブラーニング」共同研究等の産学連携を担当。ビッグデータエバンジェリスト。

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